AJCCの聖地に行って思うこと

2020年2月24日

東京オリンピックが開催されるこの年に、私はあるマクドナルド店舗に行ってみたくなった。
東京は大田区にある「環八大鳥居店」だ。

マクドナルドが日本に上陸して半世紀。
今まで紆余曲折を経て、大きなネックポイントを経て、それでも人々に愛される存在として今に君臨するのだが、今ほどマクドナルドそのものが大革新の過程にある年は無いだろうと断言できるほどに、変化の中にある。
このブログでも唱えてきた「マクドナルドらしさ」がどんどん失われていく今、この店は過去の歴史を知る生き証人であり、それを彷彿とせざるを得ない。そんな気持ちにさせられている。

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都内の好立地で平屋建ては今どき珍しい環八大鳥居店
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今や懐かしさが漂うヒゲマック

今日は抜群の快晴で、とても暖かく、お出かけ日和となった。
三連休最終日ということもあり、店は大変な混雑だ。

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2POSで店内の大行列を丁寧にオーダーテイクしていく

そう。この店の混雑は常軌を逸している。画像を見てもわかる通りで、店内に長蛇の列ができている。街道店であるにも関わらず、この行列。大変珍しいパターンだが、店内で飲食するのであれば、近隣住民の方々だろう。
店はいわゆる「ヒゲマック」と呼ばれる、今から二世代前ほど前の設計で、藤田時代と原田時代が入り交じった趣があり、ファミリー席に重きを置いている。そしてどの席も家族連れで満席状態だ。

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まさにハンバーガーレストランという言葉にふさわしいゆったりした客席

DPSはあるものの、今のマクドナルドの客数対応に対応できるキャパシティを超えている。そう。この店は今の時代に追いついていない。

実は2年ほど前に、私はこの店を訪れていた。
その時にたまたま撮影していたあるもの。

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本棚があって使い込まれた絵本があった
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まさにママ目線の工夫もあった。先折れストローはうれしい気配り

店には絵本の本棚とか、小さな工夫が光るコーナーがあった。
しかしそれらはもう今、取り壊されて存在しない。マイホームのような温かさから、多くの客を可能な限り収容できるだけの合理性が勝っている。そんな変化がここ数年で見られた…という訳だ。

この店を語る上で忘れてはならないことがある。
それは「AJCCの聖地」であるということだ。
1977年から伝統的に行われてきたそれは、今となっては同エリアの「1号線池上店」や、旗艦店である「六本木ヒルズ店」での開催が主流であるが、マクドナルドがマクドナルドらしかった時代には、この「環八大鳥居店」が全国戦のファイナルの地として君臨していたのである。
この店で開催される決戦は、大きな看板が掲げられ、SNSの「映え」ばかり気にしている今の出場者とは違い、そんなものが無い時代だからこその、本気のスキルマッチがあったと訊く。つまりこの店は、多くのAJCC参戦クルーが闘い、笑い、涙した甲子園のようなシンボリックな存在ということだ。

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こんな立派な看板が掲げられて行われる全国戦も今は無い
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AJCCそのものが今とは違い、そして多くのクルーがここで汗をかき、時に涙した

マクドナルドは変わった。
お子さまを最高のホスピタリティで迎えるSTARも廃止。ドナルドアピアランスも廃止。この店でも開催されたドナアピの写真も私の手元にある。そしてSNSが台頭し、異常なほどのGCがあり、正直店内は荒れている。この客人は今のマクドナルドのどこに惚れて、こうして列を成してまでやってくるのだろうか。そう想った時に、今までの「来店機会」とはまた違うものを現場で感じていたりする。

スマートフォンで得られる情報で人々はコントロールされ、今や席に着いたまま発注することもできる。様々なアプリからクーポンが発行され、店には社外の出前の人々が大きな箱を持ってやってくる。そしてオーダー待ちのモニターには数字が並び、てんやわんやの大騒ぎだ。

ちょっと待って欲しい。
飲食店としてのベーススペックを超えたこの状況は、異常では無いか。
私は今のマクドナルドの繁栄が「バブル」ではないかと感じている。そしてそこにとんでもないリスキーさを孕んでいないだろうか。
そもそもマクドナルドビジネスとは、「90秒」で商品を提供するルールだが、ここまで混沌としてしまうと、90秒はおろか、10分は待たされている。そして「スピーディー」を売りにしていたサービスそのものも、オーダーまでも大変な待ち時間になり、早さ自体はもうそこにない。そしてセルフサービスを創業以来の売りとしていたが、座る席すら確保できない状況にある。これは他店でもよく見かけるものだ。こういうものを統合的に解消していくであろう「EOTF」(未来型店舗体験)だが、こんな群衆の中で推進できるものではない。事実としてすでにEOTFを推進している店舗からは様々な意見が噴出している。「環八大鳥居店」はまだEOTFは何も始まっていないが、このGCでそれができるとは到底思えない。

話を戻そう。
AJCCがこの店で繰り広げられていた頃は、家族連れがきちんと着席でき、フロアサービスが店内の秩序を守りホスピタリティを満たし、そしてゆとりある仕事にクルーたちは楽しく仕事ができていただろう。
今はどうか。毎日こなすにはしんどい仕事量、クオリティの低下、もしかしたら苦情の量も増えているのかもしれない。それでもキレる事なく黙々と仕事をしているクルー達の姿。ひとつでも歯車が噛み合わなくなると大変なトラブルを引き起こす一歩手前のギリギリなところを、必死にならないとどうにもならない現状での格闘。

会社は儲かった。株価も上がった。きっとお偉いさんは狂喜乱舞でこの状態が続いて欲しいと感じているだろう。
そしてこれからもずっと、どうしようもないプロモを、SNSのチカラに頼って乱発し、客を扇動していくだろう。
しかし、本当にこのままで良いのか。そして、SNSに頼りっぱなしで本気玉を投げなくて良いのか。
何より、この異常なGCのまま、或いはそれ以上の効率を維持し続けるというのか。

AJCCで私たちが培ってきたホスピタリティ。
それが今、葬り去られようとしている。それは会社の繁栄とは裏腹なところにあり、どちらかというと、無機質な機械的なものに変容している。このAJCC聖地の状況を2020年に俯瞰した時、私の胸に語りかけるものとは、我が家のようなものではなく、市場のような賑やかさ、いや、賑やかとかではなく、むしろキリキリとした緊張感。少しでも何か綻ぶと怒りの炎が燃えさかるような、そんな空気が立ち籠めている。

この店はまだ旧ユニフォームだったが、今日はSTARを見かけることはなかった。
当然、客席にいてホスピタリティを感じることはない。
行列を眺めながら落ち着きのない空間で頂く食事。
マクドナルドとは、こういう場所だったのだろうか。

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ホスピタリティ溢れる店内を見続けてきた記念プレート

3000号店舗目の看板が泣いているように思えた。
そう。今のマクドナルドには優しさが足りない。

そして今のようなバブルを、レイクロックは望んでいない。

大人だけのバースデーパーティー

マクドナルドでバースデーパーティー!
子供の頃誰しもが憧れたのではないだろうか。
私の世代はそもそもホームパーティー的な事がかなり最先端で、ましてや自分の家ではなく、会場を設けて誕生会をするなんて、一般人レベルではできなかった。

そんな私も44歳にして、その夢が叶った。
その夢を実現させてくれたのは、六本木ヒルズ店だ。
元々パーティーを予定していたのだが、ちょっとしたトラブルがあってゲストを招くことを取り止めた。
でも開催の半年前にパーティーを開きたいという企画を店に持ち込んだときの、店長がとても喜んでくれたのを忘れることができず、急遽趣旨を変えて「誕生会と出発式(全国の店舗を廻りきる企画)のハーフ&ハーフ」として開催した。

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店長ほか温かいクルーと共に

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プレゼントを開けるとユニフォームが!クルー体験という贈りもの

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手作りのパーティーは心温まる

ところで…
お気づきの方もいるかもしれないが、このパーティー、子供が主賓ではない。
44歳の大のオトナが主賓だ。
マクドナルドで子供対象以外のバースデーパーティーなんて、やってくれるのか?
そう思われるかも知れないが、実はこの「六本木ヒルズ店」ではそれが可能だった。

私以外にも、同店においてバースデーパーティーを開催した方もたくさんいるようで、このようにメディアが体験的企画を持ち込むこともある。
しかしこれらは、私含めて「無理」を言ってお願いしたものではない。
寛容な対応で、大人だけでもバースデーパーティーを開いてくれるという粋な計らいがあった。

実は私がこの店で「大人だけのバースデーパーティー」を開催するのには、ある狙いがあった。

今、日本全国のマクドナルドは、そういった「店舗活動」が縮小傾向にある。
それは様々な事情からくるものだが、マクドナルドという空間で楽しいイベントが無くなり、ただハンバーガーを買い、そこで食べるだけになり、実に味気ない。
そうではなくて、楽しい空気が備わってこそ、マクドナルドだと私は思っている。
だからこそ、全国の店に対して、「六本木はここまでやってるぞ」という情報発信したかったのだ。
少しでもそれで刺激が得られ、より多くの店で「店舗活動」が再び息を吹き返すようになってくれたらいいな…という願いを込めたパーティーだった。

過去最高益を計上する状況を支える要素として、直接キャッシュを生まないものを廃止する傾向がある。
それは、どんどんマクドナルドをマクドナルドではないものへと変貌させていく。
きっと、この記事を読んでいる方も、薄々感じ始めていると思う。
押し寄せる客をひたすら捌くだけで、パーティーなんてやっている余裕が無い。
「店舗活動」を隅に追いやった結果、自動販売機のようになってしまった。

子供でも、大人でも、みんな笑顔になれる。
ただ商品を売る、買う、そんな関係では無く、時にはそういう「商売」的な感覚を忘れて、パーティーを楽しむ。
そういう場所が、マクドナルドなんだ。
知らない人の誕生日に、みんなで歌を唄った事がある。
拍手を贈ったことがある。
それは昔話だったなんて、あまりにも悲しい。

大人だけでも大歓迎な寛容なお店が増えてくれることを期待して…。

【追記】
六本木ヒルズ店は、その後店長が替わり、パーティーを開催しなくなった