マクドナルドの理想郷である開成店

今年、AJCC(オールジャパンクルーコンテスト)を観戦するなかで、注目している事がある。それは、今年から新たな審査部門として開始した「GEL部門」について。GELとは「Guest Experience Leader」の略で、国内では「おもてなしリーダー」と呼ばれている。
このブログでも何度か採り上げている「サービスアップ」の施策として2017年に開始したそれだが、全国の様々な店で展開するのには、一斉にスタートするのは難しく、2019年が実質的な「GEL元年」となった。今やおもてなしリーダーが活躍する店はとても多くなった。

しかし、サービスアップを推進する反面で、顕在化する問題点もある。
それは、ビジネスリカバリープラン後の「大時化」(おおしけ)状態だ。忙しさを極める店は、多くの客が押し寄せ、おもてなしどころではなくなってしまった。そしてクルーからは笑顔が消え、ノイローゼになりバタバタと辞めていくという話をよく聞くようになった。

そんな実情の中で見るAJCCのGEL部門とはどんなものなのか。

過日開催された中日本地区本部戦。GEL部門の審査を見る中で、一際目立つ出場者を見つけた。私はそのGELが働く店をこの目で見たいと、ピピッと心動かされるものを感じたのだ。と、審査会場で食事をしていると、ある法人(フランチャイズ加盟企業)のオーナーが挨拶にやってきた。私は関係者ではないと告げると、私のことを知っているご様子で、しばし対談したのだが、私の想うところのマクドナルド像にピッタリで、後日同法人の店にTOV(臨店)したいと打診した。

神奈川県西、西湘地域で営業展開する同社。お招き頂いたのは開成店だ。
実は私はここが地元も地元。すぐ近所に母校もあり、駅を降りた瞬間に懐かしさを感じるところだ。駅から徒歩で10分ほどで同店に到着した。

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どことなく宮殿を思わせる外観

丹沢の山々、奥には富士山も見える。空気も東京からくらべると澄んでいるように感じる。
そんな山々に負けじと、大きなプレイランドがそびえ立つ同店は交差点に位置し、とても目立つ。聞くところに依ると、神奈川県でも屈指のセールスを誇るドライブスルーなのだそう。

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オーダー口はひとつしかないが神奈川屈指のハイセールスがここから生まれる

敷地は広く、中に台数は取り込みやすいのだが、サイドバイサイドではない。それでいて多くのマイカーでの来店に対応できるのには秘策があるのだろう。

【追記】
先の画像は朝の時間帯だが昼頃には爆裂的に混雑して驚いた!
もはや道と化している!

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三列の車列には圧倒された
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まるでグランドピアノのような形の店内

店はワンフロアで一般的な街道店のスタイル。建物の一角は一段屋根が高いプレイランドがある。内装デザインはだいたい10年ほど前のものだ。ただ、デジのトランスライトとかDPSは採用されており、スペック的に引けをとらない。

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なかなかデラックスなプレイランドはセパレートしている

 

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建物は古いが設備は更新されている

こちらをクリックすると開成店の店内をVRてでご覧いただけます

実は私はこの店を訪れる前に、今夏同法人の別の店にTOVしていた。そこで見たGELの仕事にも度肝を抜かされた(詳しくはフェイスブックをご覧いただきたい)こともあり、今回の注目事は、やはりGELのおもてなし力といったところだろう。そう。あのAJCCの日に注目していたのは、同法人の『メンズGEL』なのだ。

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イケメンなフロアホストTさん

マクドナルドクルーは圧倒的に女子が多い。だからAJCCにも女子が多く参戦してくる。それはそれで良しなのだが、やはり男子がやや元気がないというか、目立たないというか、群を抜かない。そんな中で、とびきり仕上がりの良いメンズGELを参戦させ、他店を圧倒させるその心意気に触れたく思った。

GELとは「フロアホスト」とも呼ばれる。ホスト感は絶対必要で、着のみ着のままではいけない。どこか上品で、丁寧で、落ち着いた佇まいが求められる。メンズGELのTさんのこの雰囲気、どうだろう。私は男から見てかっこいいと思える男が好きだ。メンズクルーとは、だらしなくラフにやることがかっこいいと思い込んでいる。しかし彼のように、真摯にひたむきに仕事をするその仕草は、きっと女性のハートを射抜くのではないだろうか。そう。同社のオーナーがフォーカスするのはそこだ。

ファミリーでの来客が多くなる街道店。ママ友や近くの学校の学生が多く訪れる。そんな中でキラキラしたメンズでおもてなししたいというオーナーの想いがここに結実している。都市部でもちらちらとメンズGELを見かけるが、時に「中学生」と見間違うほどユニフォームに着られ、そしてアップ感が無いのとは裏腹に、彼にはスタイルがある。やれと言われてするのではなく、一本筋が通っているからフロアサービスにもブレが無い。爽やかに、さりげなく、女性GELには無いものがある。こういうおもてなしの「咀嚼」もまた良いものだ。

実は開成店のTOV当日も、オーナーが駆けつけてくれて、ご夫婦から多くの話を聞くことができた。その中で感銘を受けたのが「ベルリンの壁」のお話だ。
東西ドイツを隔てる壁としてそびえ立っていた大きな塀。それがマクドナルドにもあるという。どこにあるのかというとそれは「カウンター」だというのだ。カウンターで分断された世界。クルーと客を隔てる見えない壁として、それを壊せないかずっと考えてきたという。そこにEOTF(未来型店舗体験)の波が押し寄せ、そこでするサービスを自分たちの手で活かしてみようということで、ある取り組みを始めたそうだ。

テーブルデリバリーというメソッドをしっかり育てていく試み。そしてその中で生まれた「テーブルデリバリーアンバサダー」の存在。これは年に何回か開催される社内コンクールにてしっかり審査され、認証された者にだけ特別な名札が与えられる。

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テーブルデリバリーの特別感は他店を寄せつけない

だからこそ、テーブルデリバリーの「質」が違う。
仏頂面で無愛想にされるものとは違い、最大限におもてなしの花が咲く、まさに花形に相応しいポジションへと昇華している。動画でそのクオリティをどうしてもお伝えしたくて、無理を押してお願いしての掲載だ。こんな上出来なテーブルデリバリーは見たことがない。そう。この取り組みにより、ベルリンの壁はブレークスルーしたのだ。

オーナーは熱く語る。
マクドナルドが失ったもの、そして私たちが忘れてはならないもの。
私が発信するSNS投稿をまるでバイブルのようだと褒めてくれるが、それはおそらく辛口な私の言論を変化の「ヒント」にしてくれているからだと思う。そういう「理念」とか「創造」を忘れるほど、今のマクドナルド を取り巻く環境は急激な変化の中で蹂躙され、大切なものを見失ってしまったから、EOTFさえも惰性でやる店が増えているのだと思う。今、レイバーは楽しく労働できているのだろうか。

そういう意味では、同店のクルーは違う。
それを語る上で、ある「行い」が気になった。

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管理者もバイトクルーも全員お辞儀を欠かさない

インしてくるクルーが従業員口を出入りするときに、必ずお辞儀をしているではないか。オーナー曰く、これは誰がしろと言ったわけでもなく、自然に始まったのだそう。まず店への、ゲストへの礼儀があるからこそ、仕事に特別な思いで取り組めるのだと思う。ある男性クルーはお辞儀の後に、拳を胸にあて、何かを念じているようだった。そういうことを目敏くしなくても見つけることができる。

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全員楽しそうに働いているのが印象的

以前、八戸南類家店でも同じ状態を見つけることができたが、この法人のクルーは労働を楽しんでいる。いや、労働だと思っていないのかもしれない。キッチン、ドライブスルー、カウンター、プレゼン、フロア、そしてシフトと、皆が嬉々としている。忙しければ忙しいほどにそれが色濃く感じられるかなり珍しいパターンだ。例えばテーブルデリバリーで往路。復路は席を整えてくる。それはもう言われてするのではなくて、自然と自分から行動することにどことなく悦びを見出しているのだろう。そういう空気は良い客を集めるのかもしれない。
そういえば店長がオペレーションなどには入らず、全体をしっかり把握し、指示や援護ができるように動いていたのが印象的だった。ディレクターはあまり自ら手を動かさずにディレクターに専念していた方が良い。

私が感動したのはまだある。
それはMSM活動が健在なところだ。

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手作りのイベントがまだあるなんて感激

オーナーと対談している席に、ニッコニコなクルーがやってきて、これからクリスマスの飾りを作りますけど参加しますか?と言ってきた。私とオーナーはいい歳した大人だし、参加する事は無いのだが、分け隔てなく声がけしてくれる心意気。イベントに参加するしないは別として、ハッピーのお裾分けとはなかなかではないか。同店ではこういうサンデーイベントの類が色褪せないで残っているのが嬉しい。子供たちの笑い声が聞こえなければマクドナルドではない。

実は初臨店の日は11月17日。この日に記事を書き上げて即時アップする予定だったのだが、思いの外オーナーとの談議に花が咲き、肝心な取材が疎かになってしまい、日が暮れてしまったため、今日改めての臨店となった。そういう意味では過日はオーナーがいるからこその「オーバースペック」なのかと思いつつ、今日またやってきたのだが、先日と遜色無い仕事っぷりに圧倒されたし、見せかけだけではない日々の積み重ねによって、この店、ピープルが育っているということを思い知らされた。今日もまるでBSVではないかと思えるほどにしっかりしている。

行き先が決まらないクルーズでは、クルーは不安だし、楽しくないし、海に飛び込み離脱したくなる。一方で、行き先が定まったクルーズなら楽しく、インナーのハッピーをゲストにもお裾分けできる。そう。今のマクドナルドが忘れかけている何かを、同法人のオーナー、社員、クルーは知っていて、そこに回帰していくことで、結局それが最善であると知っているのだ。意味がないテーゼなんていらない。やりたいこと、夢やビジョンがあって、皆が同じ方向を向き、タッグを組むからこそ、つまらなさそうにしている人はいない。ダイナミックに、ベーシックに、時にオーソドックスに。自分で拓く航路だからこそ、活き活きできる、そんなピープルに出逢うことができた。

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古いはずの設備が輝いている

最後に。
良い店は必ず洗面器が輝いている。
そして曇りひとつない窓ガラス。
多くを語る私ですが、原点はここにある。
惜しみなくTekina Awardを贈りたい。

※記事内のYouTubeは非公開限定リンクです

マクドナルドの深刻な問題

私、マクドナルド的な〇〇は、全国のクルー(従業員)から相談を持ちかけられることが多い。今まで数えきれない悩みに向き合い、傾聴し、その解決の手助けをしてきた。そもそも、なぜ社員でもない私を訪ね、相談してくるのかという疑問があるかもしれないが、あるクルーがこう言っていた。

私たちの悩みや会社の問題点をよく理解してくれている

元々は某労組の執行委員をしていた経験で、労働法違反的な事案に対し、あくまで中立的立場で問題解決を指南してきたのだが、その延長線というところだろうか。多いときでは同時に4、5件は掛け持つこともある。自分自身誰かの世話焼きをするのは嫌いではないので、ボランティアでそれをしている。

そんな中、あるクルーから相談が届いた。
そして打ち明けてくれた悩みとは、とても重いものだった。

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この画像は、マクドナルドの季刊誌で「SMILE」と呼ばれるものだ。
以前は社内報として社外秘扱い(今はBizSMILEという別誌が社外秘)されていたが、今は一般向けに公開されている。そしてある号で登場したクルーからの相談だった。

関西の某店で働くクルーは、Trainerと言って、クルーの教育を任せられている存在だった。そして本人がいちばん大事にしていたのは「ホスピタリティ」だったという。その流儀を仕事に活かし、そして後輩達に伝承し、ゲストが喜んでくれることを第一に考えて行動していた。
ところが、そのクルーは自分の店にいられなくなってしまったという。話を訊くと、店長に嫌われてしまったというのだ。
ホスピタリティを大切にするクルーが、どうして店長から嫌われてしまったのだろうか…。

この店の店長は、売上利益至上主義で、その方針に従わないクルーはみんなぞんざいに扱わられるという。そんな中で、ホスピタリティなんていらない。より効率的に、合理的に仕事をして、キャッシュに拘って欲しいという命題を突きつけられたという。そのためには、マクドナルドの真骨頂とも言える「早さ」が強く求められる。同社の中では「タイム」と呼ばれる早さを示す時計が、クルー達にのしかかってくるという。今すぐキャッシュにならない、おもてなし要素はすべて却下され、店の風土はどんどん砂漠のようにカラカラになっていった。

そしてそのクルーは、なんと店を追い出されてしまった。
実際は近隣店に「移籍命令」が下り、本人の希望とは裏腹に異動を余儀なくされたという。

そのクルーはとても悲しかったそうだ。
自分が愛して止まない店を追い出され、新しい店で精一杯頑張り、また店長に評価され、引き戻してもらいたい。その一心で数年働いたそうだ。

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ある日、意を決して店長にLINEを送ったそうだ。
勇気を出して、そして誠意を込めて、心からの言葉を綴ったという。
しかし、そのLINEは、既読がついただけで、返信は無かった。

実は、こういう相談は、ひとつだけではない。
店長の方針に従わなければ村八分。こういう事案はかなりの数寄せられる。

マクドナルドは長きに亘り、ホスピタリティの樹を育ててきた。それは今のクルーの親の代から、脈々と受け継がれてきたものである。子供たちの笑い声が聞こえ、家族の楽しい時間を演出するクルーの姿があり、それを店長やマネージャーが、まるで親のように見守ったものだ。時にその想い出をポラロイドカメラで撮影して、おみやげにしてあげたりと、そこには心からのおもてなしの姿があったと思う。
今はどうだろうか。ビジネスリカバリープランが持ち込まれてからというもの、店長は皆、売上利益至上主義となり、多くのマクドナルドから「ホスピタリティ」が消え去ったのだ。私は日本一マクドナルドに行く客なので、その変化をこの目でしっかりと見分している。

売上利益は大切だ。しかし、それだけで世の中回っている訳ではない。
そもそも高校生が楽しくバイトできる環境をつくるのが店長の役目ではないか。その次元に金儲け主義をもってくるというのは、どういう了見なのだろうか。そんなにお金が好きなのか。

そしてこの問題は、今のマクドナルドを語る上でとても深刻な問題である。
何故なら、EOTF(未来型店舗体験)を開始している現段階で、こんな「おもてなし不要論」があちらこちらから浮上してくるという厳しい現実がそこにあるからだ。上質なおもてなしで、今までに体験したことの無い新しいマクドナルドを創っていこうというこの時に、ホスピタリティなんていらないとか、どの口が言っているのだろうか。もしかしたら、売上利益を求める中でするおもてなしとは、心のこもらない、形式的なものなのかもしれないと言わざるを得ない。

店長からのLINEは結局返ってこない。
そしてそのクルーは、スターバックス・コーヒーへ転職することを決めたそうだ。

SMILEで輝いていた笑顔。
あの日にもう一度戻りたい。
何より大好きだった店、仲間ともう一度一緒に働きたい。
まだ若いそのクルーには、胸が張り裂ける想いだったことだろう。

あなたのホスピタリティは、きっとスターバックスで花開くはずだ。
マクドナルドはこうやって、日々着々と、優秀な人材を失っていく。

「クルー満足度84% まだまだです」