テーブル拭きの話

マクドナルドは今、サービスメインへの取り組みに奔走している。
そしてクルー全員が「おもてなし」について考えるという局面にある。
そんな中、ある店先で見かけたシーンと想うことを書きたい。

「テーブルを拭いて頂けます?」

ある客が、入店して席取りをした途端、クルーにそう告げた。
その客はオーダー、商品を受け取り、席に戻ってきた。
するとどうだろう、不在のときに拭いたであろうテーブルを、今度は自分でペーパーナプキンで拭きだした。その客の表情はどちらかというと不快そうだ。

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ふむふむなるほど…私にはその客の心中が汲み取れていた。
OLと思しきその客は、きっとカウンタークロスで拭いた直後の「ビチョビチョ」が気になったのだろう。
男性クルーがやってきて、ささっと拭いていったのは知っていた。しかし、その拭き方に客は満足しなかった。

このシーンこそ「マクドの常識は社会の非常識」と感じるところだ。マクドナルドを愛する私でさえ、そういう中立的見立てに陥ってしまう。

マクドのカウンタークロスとは、薬剤に漬けたものが「軽絞り」の状態で持ち歩かれ、多くのテーブル、広い面積を拭くべく、水分が滴るほどの状態でフロアを廻る。個人的にはそれについて何とも思わない…のだが、一般客目線では、きっとそうじゃないのだろう。

「拭いてって言っているのにビチャビチャじゃないの」
「これがマクドのテーブル拭きなの?」
「ちゃんとしぼってないじゃない」

客はきっとそういう見立てだろうが、それは至極当然の感覚だろう。

マクドナルドの今までやってきたことが「基準」とするならば、今サービスメインを進めていく情勢にあって、それは「基準」ではなくなってきている。そう、ファーストフードから離脱していく過程の中で、そういった「スタンダード」は変化を余儀なくされている。

クルーが当然のようにしてきたことは、今「正しいのか」を客が深く見分する時がやってきたのだ。

そして、ことカウンタークロスの「使い」についても気になることがある。

ある男性クルーがカウンタークロスを手に取り、フロアを廻っている。
ふと見ると、カウンターの椅子を「赤」のクロスで拭いている。私は「ん?」と思ったが、そのまま観察していた。すると今度は「青」のクロスで椅子を拭いている。そしてひとしきりラウンドをした後、赤と青のクロスを一緒くたにしてサンキューボックスの上に置き放った。

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そもそもなんで2種類のカウンタークロスがあるのか。
それにすら意識が向いていない。実質それは形骸化し、クレンリネスをやっている「ふり」になってしまっている。
それは客が見たときにどう思うのだろう。私たちがこんな運用を目の当たりにし、だらしないなと感じたなら、せっかくのクレンリネスはまったく意味を成していない。そもそも「クロスコンタミネーション」(相互汚染)のリスクがそこにある。
これらはクルーであれば学習しているはずなのだが。

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おもてなしを高める。その中で、今まで「常識」としていたものを見直す。
それは何もカウンタークロスやテーブル拭きに限定したものではない。

私はよくクルーから「おもてなし」についての質問を受けるが、それはいつだって「マクドナルドの常識」の元にある。つまり、「マクドナルドの中でどうやっておもてなしをしようか」という事なのだが、そこに大きな盲点があると私は思う。

そう。マクドナルドの常識に当て嵌まるところに盲点があるのだ。

今までのやり方をひっくり返す今だからこそ、「常識だったことを非常識」だと思うべきなのだ。

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顧客の感じる満足、安全、安心とは何か。
それは「ビジュアル」で造り込むことはできないし、もうその手にはのらない。
クリエイターがつくるそれではなく、目の前でクルーがすることを、自分の目で見て、感じるところに、新しい「常識」が誕生する。

「マクドナルドだから○○」
私はこの言葉が大嫌いだ。
2種類のテーブル拭きの使い方を間違えている店は、今とても多い。

期待通りのマクドナルド八戸南類家店

業界関係者と対談するとたまに耳にしていた店「八戸南類家店」
今回は同店のクルーからもお誘いがあり、雪が降る前に行ってみようということで、盆休みの最中新幹線に乗って八戸まで行ってきた。今回は同店のレポートを書きたい。

マクドナルド八戸南類家店は、青森県の東側、太平洋にほど近いエリアに位置する。
本州でも限りなく北寄りで、冬は厳しい寒さが訪れる。

新幹線で3時間で行ける手軽さもあり、大阪や京都に行く気分で向かった。
人生で初めての青森はとてもワクワクする小旅行となった。

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八戸南類家店はドライブスルー(DT)併設の一般的な街道店だ。地域の大きなスーパーや店舗が集まる賑やかな地域に位置する。

いよいよ店内へ。
まず、視界に飛び込んできたのは、壁一面のイベントチックなコーナーだ。

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客人をお迎えするアットホームなコーナー

店舗建築は、最新から比べると二世代前のものだが、今の建築に比べると、このように造り付けの本棚であったり、ポスターなどの掲示物コーナーであったりと、飾り付けしやすいもので、他店でも、この世代の箱は店の「色」が出やすく、過去にも良いものを見つけたことがある。

中央はイベントでみんなが参加して作り上げた折り紙の生きものたちが集う海。
きっと参加した子供達は、自分が折った折り紙を認めて、喜んでくれる事だろう。
このコーナーを見ていると、おもしろいものを見つけた。

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小さいドナルド発見!

本棚には小さいドナルドが住んでいた。クルーの手作りだろうか、こういう小さいところにも店の温かみを感じる。
イベントについては以前にも記事を書いたが、全国的に縮小傾向にあって、目立ったイベントは行わないパターンが多い。そんな中で、イベント感があるのは大きなアドバンテージであり、家族での利用にはうれしいだろう。

店内はそんなに席数が多くない、割とコンパクトな印象。
朝マックの時間に入店したが、数名しか客もおらず、実にほのぼのしているなと思った。
最近流行りの大テーブルではなく、BOX席メインでカウンター席も無いから、この席をどうやって活かすのか興味深いものがある。ピークが楽しみだ。

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ファミリーを対象とした印象の店内

朝マックが済むと、ぼちぼちと店内も混み始めてきた。
ここからが八戸南類家店の腕の見せどころだ。

実は今回の臨店でひとつ確認したい事があった。
それは「テーブルサービス」だ。
今や直営店を中心に、少しづつ拡がりつつあるサービスだが、実は同店は直営が始める前から、独自のサービスとしてそれを展開してきたという。
どんな方法でそれをやっているのか、まずはそこに注目した。

オーダーをして、払いを済ませると、レシートを渡される。
何の変哲も無い普通のレシートだ。
そして「席までお持ちします」と言われたので、そのまま席に戻ると、程なくしてクルーがトレーを持ってきてくれた。
所謂「ウェイトカード」などの目印となるものは受け取っていない。しかし、クルーは迷う事なく私のオーダー通りの品を届けてくれた。
「コンパクトな店内」とは書いたが、実際そんなに席数が少ない訳ではないし、レシートだけでオーダーを当てるのは難しい。で、どうして分かるのかと尋ねてみた。

「お客様をオーダーの時に覚えてクルー同士コミュニケーションをとってるから迷わない」

というではないか!
例えば、オーダーを受けたクルーが届ける訳ではない。ランナーないしフロアのクルーがトレーを受け取ってお届けに行っている。だからどこかしらで「誰に届けるのか」を伝言しないと迷いが生じるだろう。そこを間違いなくスピーディーに届けられるというのは、オーダーと客を覚え、それをしっかり届けるという「心を込めた仕事」がそれを実現させるんだと思った。
一般的なマクドの姿は、ウェイトカードがあっても、それを見つけられずに右往左往してしまうものだし、私もそれが当たり前だと思っていた。ただそれが、ポテトなどのウェイトばかりで、一時的なものだと、いちいち全オーダーを覚えるには至らない。しかし、テーブルサービスで、全てのオーダーを覚える事に慣れていると、ウェイトカードに頼らずとも、クルー達のコミュニケーションだけで、お届けができてしまうのだ。これにはかなり驚いた。
昼ピークど真ん中でも、テーブルサービスはスムーズなコミュニケーションによって、間違う事なく行われた。

テーブルサービスに驚きながらも、届いたサンドイッチを食べていると、STARが席にやってきて、あるサービスをしてくれた。

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氷入りの冷水サービス!

何かのサンプリングかな?と思っていたら、冷水をお配りしている。
本当はお届けしてくれた素敵なSTARも一緒に写したかったが、トレーを置いてもらってのブツ撮りになってしまった。こういう時のクルーのスマイルとか、そういうのはなかなか言葉では伝えにくいだけに残念だが。
味がしつこいサンドイッチの場合、ドリンクではなく水を飲みたい時がある。こと今開催している「ご当地グルメバーガー祭」を今回実食したが、味が濃くて口の中をリセットしたくなる。こういうサービスも始めて見るし、一歩前に出た心配りを感じる。

そう。この店でまず特筆すべきこと。
それはSTAR(お客様係)の秀逸さだ。

細かいところを見つけるのが私の悪い癖だが、STARの心のこもった仕事を見逃していない。
例えば、まず客の入店。
STARがフロアのクルーに合図を送っている。何かな?と思ったが、ドアを開けることを促していた。開き戸なので手動なのだが、子供が開けにくい、赤ちゃんを抱いているとママも開けにくい。多分そういう視点なのだろう。入り口でドアを開けてくれている。
ドアをくぐると、まずSTARが席に誘導している。そして、ハードカバーのメニューを手渡す。
なるほど!カウンター前で立ってメニューを選ぶのではなく、一旦着席してもらって、そこで選んで、一人でオーダーに行ってもらい、払いが済んだら席までトレーをお届け。
ファミリー客を意識している中で、STARが決して合理的なだけに帰結せず、思いやりをもって客をお迎えし、痒いところに手が届く、ホンモノのテーブルサービス、バリューの実践があると見て取れた。
STARの圧倒的なラウンド数も忘れてはいけない。

他にもその秀逸さを感じた。
例えばウェストポーチに、いつもおしぼりを携行している。
だから、客を見て必要だなと判断した瞬間に、ササッと取り出せる。
ラインメイクでも、ハードカバーのメニューを差し入れるのはよく見かけるが、人数に応じて、数冊渡したりというのは初めて見た。
そこには、「やらされているフロアサービス」ではなく、自分から生み出す上質なサービスへのこだわりを感じる。前回のこの記事に書いた、「感じること」が醸すサービスの姿だろうと思う。

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小さなところにも心配りがある店内

STARだけが凄い!というわけではない。
この店のスペックは、目ざとい私の観察眼には、他の部分にも感じるものがあった。

この店のネームプレートは、CREWはアバターの入る大きいもので、トレーナーから黒地に平仮名のRDM導入店舗のデザインになる。一般的だったグレーのトレーナー仕様ではないが、この店のトレーナーはみんな専用のピンズをしている。

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襟元に光るトレーナーの証

一般的にはSTARから見ると、少し青シャツのCREWは劣るような印象はある。マクド1年生もそれにあたり、どことなく無邪気さがあるものだ。
しかし、”TRAINER”と刻まれたピンズを着用している青シャツのCREWは、明らかにそれとは違う端正さを感じる。
STARに引けを取らないアピアランス、スマイル、そしてお辞儀の丁寧さ。まだ高校生ほどの女の子が、こんなにしっかりとした出で立ちで働いている。
勝手な思い込みだが、”TRAINER”ピンズは、きっとプライドの証であり、モチベーションを高めているようにも感じた。

プレップライン、DTランナー、シフトマネージャー、それぞれに楽しそうで、辛そうな顔を一人も見つけることはなかった。全体的に楽しそうで、自然な笑みが溢れるし、悪い意味ではなく、少しジョークを言えるほどの余裕を感じる。
それを実現させているのは、おそらく適正を活かしたポジショニングだろう。昼ピークは店長も厨房に入り、黙々と仕事をしていたが、働いているクルーのことをよく見ているんだと思った。そして、持ち場のミスマッチが起きないようなコーディネーションで、布陣を組んでいるという印象がある。
また、PDMの動きが素晴らしい。中のムードを高め、客にも常に目を向け、コミュニケーションを闊達にし、常に目が笑っている。もしかすると、店のムードをつくる張本人かもしれない。

一日通して店舗体験して、色々な驚きがあったが、総論を書く。
押し付けられた、マニュアル通り、そういう店ではないのがよく分かった。
テーブルサービスを基点とし、何をすれば客が喜ぶのかを、みんなで考え、実践し、それを磨いている。
それがわかるのが、クルーの動きだ。もう動きたくてウズウズしているのが見ていても分かる。それはもう、仕事としての義務感を超えているし、その楽しそうに働く様は、もしかしたら日本一それが輝いている店のような気がしている。
無理が蔓延る現場では、色々な問題が起きる。特にそれは品質に表れやすい。同店でピークタイム含めて観察していたが、取り揃え違いやコンディメント忘れなどのクレームは皆無だった。だいたいどこの店でも何回かはそういうシーンを見かけるが、それが起きないのも、おそらく「気持ちの余裕」が原点にあるのではないだろうか。

タイムを縮めること、回転率を上げること、そこにフォーカスしている店は多い。
一時的なキャッシュは生まれる。そして数字は上がる。しかし、品質、顧客満足、そして何よりクルーの働きやすさ、それを殺すものになっているという本質を知らない。
より実利を求めることで、結果として損失しているのだ。
時計が早い店の管理者からすれば、同店は遅いかもしれない。しかし、早さだけが売りの店に無い良さが凝縮している。

そう。クルーから「店という場所への愛着」を感じる。
それがなければ、ここまで光り輝く事は無いだろう。

そして、もう一つ。
この店に、たまたま先に示したような、優秀なクルーが揃ったのだろうか?
そんな偶然があるのだろうか?
少しかっこいい事を言うが、良きクルーとは、店で育つのだと思う。
箱としての環境、仲間としてのピープル、自分の志。
それらが反響し合い、一人ひとりのポテンシャルを高める。だからこそ、本当のシップ(船)とクルー(乗組員)としての一体感。安定感。バリューが生まれるのだろう。
それがよく理解できた臨店となった。

最後に、店のイベントに私も参加して、クレヨンを借りた。

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今日の思い出を…

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即掲示♡

ちびっ子に紛れて、私の夏の絵日記を掲示してもらった。
この日記にお世辞は無い。余韻ある店舗体験で沢山の笑顔で英気を養えた。

最後に、お誘いくださったクルーのTさん。
私の熱きマックバカトークを聞いてくれた店長。
素晴らしいクルーの皆さん。
良い夏の思い出をありがとう。またいつの日か。